悩みと予断
「予断を許さない」という言葉があります。
「あらかじめ判断することを許さない」「前もって予測できない」という意味で、「事態が急変する可能性がある」「まだ安心できない」場合などに使われます。
しかし、私たちは常に、「今」の直後の未来を予測しながら生きています。
このあとどうなるかを、無意識のうちに想像しています。予断の連続です。
そして、その予断が裏切られるとストレスを感じます。
例えば、混雑した歩道を歩いていて、前の人を追い越そうとしたときのことを考えてみましょう。
あなたは、前を歩いている人の右側を追い越そうとします。
ちょうど同時に、その前の人が右側に動いたらどうでしょう?
ぶつかりはしないまでも、苛立ちを感じる人が多いのではないでしょうか?
予想した未来が阻害されたからです。
行きつけのパスタ屋さんに入って、お気に入りの一品を注文します。
それを口に入れたとき、いつもの味と違っていたら、私たちは失望を覚えます。
予期した喜びを味わえなかったからです。
仕事で疲れて帰宅し、家族からねぎらいの言葉が欲しくて、仕事の愚痴をこぼしたとします。
ところが、ねぎらいどころか、新たな頼みごとをされたりすると、ケンカが始まったりします。期待を裏切られたからです。
もし私たちが、近未来を何も予想せず、何も期待していなかったら、
苛立ったり失望したりすることはありません。
事前に自分が近未来図を作り上げてしまうので、
つまり、予断を許してしまうので、
その通りに進まなかった時に、感情が動いてしまうのです。
「思い通りに行かない」
「こんなはずではなかった」
という思いが、悩みを生み出すことになってしまいます。
近未来図が常に白紙だとしたら、
そこに何が描かれても、柔軟に対応できるかもしれません。
近未来図にすでに何かが描かれているから(それはたいてい自分にとって都合のいいことです)、それと実際に起こった現実との違いが人の心を揺さぶるのです。
常に白紙でいること。
予想に縛られず、いつも自由でいること。
既定路線を作らないこと。
予断を許さないこと。
そうすれば、私たちの悩みの多くは解消されるでしょう。
 

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