分身の術
ゴミ出しの件で、夫と大喧嘩してしまったAさん。
朝、夫にゴミ出しを頼んでいたのに、夫はゴミを出さないまま出勤してしまいました。Aさんがいつものところにゴミ袋を置いていなかったから、と夫は言いますが、見つからなければ聞いてくれればよかったのに、とAさんは怒ります。
夫は、玄関から何度も声を掛けたのに返事がなかったと主張します。だとしたら、洗面所でドライヤーをかけていた自分のところまで来て、どこに置いたのか尋ねてくれれば問題はなかったはずです。聞こえないのに返事の仕様がありません。
その一方で、Aさんもひとこと、ゴミの置き場所を変えたことを夫に言っておけばよかったかな、という反省はあります。非が100%夫にあるとは、Aさんは思っていません。
それは夫も同じでした。
ゴミの置き場所が変わったことを、妻はひとこと言うべきでしたが、出勤時に自分が確認してもよかったはずです。
自分にも幾ばくかの非があるというこの思い、この思いにスポットライトを当てること、それが「分身の術」の第一歩です。
もし、自分が100%正しい、相手が100%悪いと考えるなら、この「分身の術」は使えません。自分はひとりしか存在せず、世界もひとつしかないからです。
幸いにもAさん夫妻は、複数の世界を持っていました。ですので、もうひとりの自分を許し、認めることができました。「分身の術」の第二段階に進むことができたのです。
さあ、ここまで来れば、あとは最終段階です。「分身の術」の仕上げです。
最終段階、それは、「笑う」ことです。
怒っているときに笑うなんてできないという人は、無理にでも口角を上げて笑顔を作ってみましょう。すると不思議なことに、もうひとりの自分が微笑みます。自分は怒っているのに、もうひとりの自分は笑っているのです。
そして、笑いは怒りを駆逐してくれます。怒りの炎で自分も周囲も焼き尽くすことを回避してくれます。
もし、もうひとりの自分を認めることができなくても、無理やり笑ってみる手はあるかもしれません。万能薬としての笑いが、効果を発揮することは充分にあり得る話です。
 

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