悪い人
Aさんの悩みの種は、近所のママ友・Bさんです。
年が近く、子供も同年齢で、知り合ってからすぐに仲良くなりました。
最初は家族ぐるみの付き合いをしていましたが、Bさんが体調を崩してから、関係がギクシャクし始めました。Bさんのお子さんが、小学校受験に失敗したことも重なりました。
いわれのない中傷メールが、頻繁に入るようになったのです。
受験失敗の原因がAさんの子供にあるように書かれたり、挙句の果てに、Bさんの体調の悪さも、Aさん一家の責任にされてしまいました。
当初は、知らないうちに相手を傷つけていたのかも知れないと思い、Aさんは丁寧に返信をしていましたが、昼夜を問わずメールが入るようになると、さすがに恐怖心が芽生えてきました。
なぜこういう事態に陥ったのか、Bさんがなぜ自分を目の敵にし始めたのか、その経緯は定かではありません。Bさんが精神的な調子を崩したからと言われれば、それまでなのですが…。
思い余ってBさんのご主人に相談したところ、メールの回数は減ってきました。それでも、数日置きにメールが入ってきます。できるだけ刺激をしないように、当たり障りのない返信をしていますが、時にそれがBさんの気に障るらしく、激しい中傷にさらされることもあります。
Aさんは、どう対応していいのか、頭を抱えてしまいました。
そんなある日、Aさんはテレビドラマを見ていて、主人公のこんな台詞に出会いました。
「自分のことばかり考えているから、うまくいかないのよ」
Aさんは夫から、Bさんのメールを無視した方がいいんじゃないかと言われてい ましたが、体調の悪いBさんに、これ以上ストレスを与えたくないからと、返信 を続けていました。
でも、このドラマの台詞が耳に入ってきたとき、Aさんは自分で自分をごまかしていることに気づきました。
Bさんのことを思って自分は返信しているのではなく、自分を守るために返信していたんだと。
近所でバッタリBさんと出会ったとき、気まずい思いをしないように、Bさんから嫌われないように、悪く思われないように、返信をしていたんだと気づいたのです。
ただ、自分のためと言いながら、今の状態では、何をどう返してもBさんの怒りは収まりません。もちろん、無視したら無視したで、Bさんは怒るでしょう。
どちらにしても怒らせるのであれば、自分をよく見せようと思わず、自分が悪人になって、Bさんに嫌われてしまえばいい。それがこの状況から抜け出る方法ではないか…。
メールが来るたびに、胃の痛い思いをする必要もなくなるし、Bさんの怒りも、その対象が見えなくなれば、少しは収まるかもしれません。偶然出会った場合は、こちらは自然に振る舞い、相手のアクションに合わせて、その時々で対応していけばいい。多少傷つくことがあっても…。
結果がどう出るか、まだAさんにはわかりません。
ただ、いい人に思われたいという自分をひとつ切り捨てたことで、多少気が楽になったのは確かです。
結局、自分を苦しめるのは自分だということに、Aさんは気づいたようでした。

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