悩みの波打ち際
同じような悩みが繰り返しやってくる…
これは、多くの方が経験されていることではないでしょうか?
一難去って、また一難…
これも、経験された方は多いと思います。
寄せ来る波のように、満潮・干潮、大潮・小潮の違いはあれ、悩みの波は私たちの足を繰り返し洗っていきます。
海岸沿いから立ち去ることが、悩みの波にさらわれない一番の方法なのですが、私たちはなかなか、その場を離れることができません。
Aさんは、不定期ではありますが、会社の同僚のYさんから、辛らつで冷笑的なメールを受け取っています。いかにAさんがダメなのかが綴られているメールで、それを受け取るたびにAさんは、心臓がドキドキし始め、落ち込んでしまいます。当たっていなくもないメールの内容に、どうしても反応してしまうのです。
自分の至らない部分を反省しつつも、そのメールにどう返信しようか、どうしたらYさんの機嫌を損なうことなく、これ以上の怒りをかうことなく、この場を治めることができるか、そればかりに気がとられてしまいます。
相手を刺激しないようなメールを必死に考えて返信し、これまでは何とかしのいできました。しかし、そろそろ限界です。今回のメールがクリアできても、次のメールが届くと、また同じように悩まなくてはなりません。この繰り返しを断ち切りたいとAさんは思ったのです。
Aさんは、Yさんに正面から向き合う決心をしました。
そもそも、Yさんからのメールが来始めたのは、Aさんの仕事上のミスが原因でYさんもトラブルに巻き込まれ、そのストレスでYさんが体調を崩したことがキッカケでした。自分に原因があるという負い目から、AさんはYさんのメールを無視できなかったのです。しかし、そのトラブルは、もう5年も前のことです。
Yさんの体調もすでに回復しています。
なのになぜ、未だにYさんはAさんに批判的なメールを送ってくるのでしょう?
Aさんは当初、そのメールをどうかわすか、そればかりを考えていました。いわば、自分のことばかりにベクトルが向いていたと言えます。
ところが、Yさんに正面から向き合おうと決めると、Yさんのことにも思いが及ぶようになりました。
「なぜYさんは、こんな棘のあるメールを私に出してくるのか?」
そして、あることに思い至りました。
Yさんのメールが届くのは、殆どといっていいくらい深夜で、しかもYさんの仕事が忙しい時期に当たっていました。つまり、Yさんは仕事のストレスが溜まり、そのストレスで眠れない夜にメールを打っていたのです。
Aになら、迷惑をかけても構わない、それだけのことを自分はされたのだから、というYさんなりの論理があったのかもしれません。
それが分かった時、Aさんは少し気持ちが楽になりました。
Yさんが自分に甘えているように思えたからです。ストレスのはけ口が自分に向かっているということは、自分を頼っているということでもあります。
だとしたら、どうすればいい…?
Aさんは、思い切ってYさんを食事に誘いました。どんな話ができるかわかりませんが、逃げてばかりいるのではなく、一歩踏み込むことで、Yさんの辛らつな言葉の奥にあるYさんの気持ちに触れてみようと思ったのです。
Aさんは、悩みの波打ち際から、きびすを返しました。
自分の思いではなく、相手の思いと向き合うために。

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