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悩みと花粉症
「2週間のご無沙汰でした。再び『深層レポート』の時間です。今回も私の司会でスタジオからお送りします。
と言いましても、覚えている方も多いと思いますが、前回の放送の途中で、スタジオは突然移動してしまいました。いま、どこにいるかと言いますと、なんと現場です。悩みの現場にスタジオが移動してしまったのです」
「ということは、スタジオは悩みの中に取り込まれてしまったのでしょうか? 悩みに感染してしまったのでしょうか?
あッ、急に横から申し訳ありません。わたくし、司会のアシスタントを務めさせて頂きます」
「そうですね、感染したとも言えますし、感染していないとも言えます」
「?????」
「スタジオが現場に移転するまでは、悩みは言わば攻撃対象でした。悩みを私たちの生活に不必要なもの、敵とみなし、排除しようとしていたのです。ところが、現場に到着してからはどうでしょう?」
「現場は悩みという敵だらけですよね? 敵に包囲され孤立無援の戦いを強いられていたのでしょうか?」
「確かに周囲は悩みだらけでしたが、孤立無援の戦いを強いられるかと思いきや、スタジオは悩みを自分の中に取り入れ、敵ではなく、味方と認め始めたのです」
「味方ですか? 悩みが?」
「うーん、少し違いますね。敵とか味方とかではなく、自分の一部と言えばいいのでしょうか、悩みは攻撃したり排除したりすべきものではなく、自分の一部、仲間と認識し始めたと言いましょうか…」
「それでは、悩みに全身を侵食されてしまうのではありませんか?」
「いえ、それは違います。悩みは花粉症のようなものなのです。悩みを排除しようとする過剰反応が、悩みを増長させていたのです。過剰反応がなくなると、悩みは単なる現象、事象になってしまいました。花粉が花粉症にならずに、単なる花粉として体内に存在しているだけになったのです」
「そんなことがあるんですか?」
「例えば、人間関係で悩んでいたAさん。上司のBさんのパワハラが原因だったのですが、いつ矛先が自分に向かうのか、その不安と恐怖が、Aさんを苦しめていました。実際の暴言以上にAさんを苦しめていたのは、不安感だったのです」
「………」
「花粉症の治療法で、アレルゲン(抗原である花粉)を少量ずつ自分の体内に取り込み、徐々に慣らして行くという方法があります。抗原への過剰反応、過剰攻撃を起こさないようにする治療法です」
「はい、知っています。私も花粉症がひどいので、調べたことがあります」
「命を危険にさらす異物は、確かに排除しなければならないでしょう。しかし過剰防衛は、人を疑心暗鬼にし、不安感を募り、ひいては自分自身を攻撃し始めます。相手を異体(非自己)と扱う前に、まず、同体(自己)と扱ってみたらどうでしょう」
「免疫の講義のようですが」
「そうですね。免疫と悩みの構造は似ています。もし私たちが、悩みを同体と扱えれば、悩みに感染することなく、悩みに悩むことなく、悩みの現場にいて、悩みから自由に空中散歩をしゃれ込むことができるでしょう。
Aさんの例で言えば、上司であるBさんのパワハラを、そしてBさん自身を、自分の中に取り込んでみる」
「そ、そんなことができるのでしょうか?」
「そうですね。すぐには理解しにくいかもしれません。これは次回に詳しく解説させて頂きます」

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